築地・豊洲に集まる世界の美味しいもの発信メディア

マグロは生より冷凍の方がおいしい?

みなさんは、冷凍マグロと生マグロはどっちがおいしいかときかれたら、どう答えますか?

おそらくたいていの人は「生マグロ」と答えることでしょう。でも昨今の漁法や冷凍技術、輸送技術の目覚ましい進化によって、事情は大きくかわっているようです。

築地で冷凍マグロを扱う老舗・仲卸の大宗さんに冷凍マグロについて教えていただきました。マグロ通のみなさんにぜひ知っておいていただきたい、冷凍マグロのこと。

 

前回の記事はこちら

マグロのプロに訊く!マグロのアレコレ

 

 

競り落とした冷凍マグロはお店で即、解体

シノブ
白田社長、いきなりですが、この大きな白い箱は、冷蔵庫ですか?

 

白田社長
冷凍庫です。ダンベといって、中はマイナス55〜60度を保てるもので、ここにマグロを入れています。

 

▲マグロを保管しているダンベ

 

 

シノブ
この冷凍庫、お店の大部分をしめてますよね。とても大きいですね。

 

白田社長
ここと、2階にも1台あるんですよ。

 

シノブ
競り落としてきたマグロをお店にもってきて、ここで保存するんです?

 

白田社長
そうです。競りで落とした冷凍マグロは、自分の店に運んで、ああして解体して、それぞれの部位に分けて出荷したり冷凍庫に保存します。

 

シノブ
あの電気のこぎりのような…

 

白田社長
あれは「バンドソー」といって、刃が高速回転で回転する加工の機械ですね。

 

▲マグロを切断する機械「バンドソー」

 

シノブ
カチコチのマグロがあんなにきれいにスムーズに切れるものなんですね。とても危険がともなう作業。ああして大きな魚体を、1体1体、解体していくんですね。

 

白田社長
頭をカットして、胴の部分を四つ割りにします。そのあと、皮やあばら、細かい骨などの不可食部分をとりのぞいて磨きをかけます。この状態をフシと言うんですが、これをランクわけして冷凍庫に保存します。

 

シノブ
なるほど。それで、お客さまからの注文に応じて、フシをカットしてお出しするんですね。

 

白田社長
はい、そうです。あっちで今日、仕入れたマグロを解体していますよ。

 

シノブ
ちょっとあちらで解体を見させていただきます。

 

 

店の奥では、大宗さんのマグロ担当の方たちがマグロを解体しています。あの大きな魚体が次々と切り分けられていく、そのスピードは圧巻です。まさに職人技。今度はマグロ担当の井辻さんにお話を伺いました。

 

シノブ
井辻さんは冷凍のミナミマグロ(インドマグロ)の担当と白田社長からお聞きしました。いまカットしているのは、ミナミマグロですか?

 

井辻さん
はい、そうです。四つ割りにしているところです。

 

シノブ
マグロの解体も、いわゆる「三枚におろす」ところからなんですね。これでも、周りは凍って白くなっているし、背骨がまったくわからないのですが…

 

井辻さん
マグロの外側からの見た目で、背骨がどのように入っているか判断します。

 

シノブ
当たり前ですが、素人目には背骨がどの位置かまったくわかりませんね。カットしてるときに、背骨を切ってるかどうかってわかるものなんですか?

 

井辻さん
音がちがうので、ちゃんと骨をとらえているかは音から判断することができます。

 

シノブ
それはきっと経験を積まないと聞こえてこない音ですね。

 

井辻さん
骨の中心を狙ってカットしないと、歩溜まりが悪くなってしまうんです。そのため、気を配って作業します。

 

▲実際にマグロの部位を見ながらいろいろと教えてもらいました

 

 

「歩溜まり」というのは製品の出来高のことを言います。たとえば頭や尾のついた100kgのマグロを加工し、不可食分をとりのぞいた出来高が50kgだとすると、歩留まりは50%ということになります。

背骨の真ん中をカットできていないと、本来は削らなくていい身の部分なども削らなければならなくなり、歩留まりが下がってしまうという影響がでてきます。歩溜まりが下がると、その分、マグロの原価はあがります。

 

シノブ
マグロの中心をとらえる技。鮮度が命の魚は、ゆっくりゆっくりと作業もしていられないですもんね。スピードと正確さを要求される、熟練の仕事ですね。四つ割りにしたら次はどうするんですか?

 

井辻さん
縦、横、と背骨の中心をカットして、丸い状態のマグロを4つにわけていきます。そして、血合いが付いている血合い面を取り除いて、磨きといって、マグロの骨や皮などを除去していきます。

 

シノブ
4つにわかれると、素人目には、どこがどこの部分なのかわからなくなりますね。

 

井辻さん
頭部とヒレを切り落として、そのあと腹側と背側と4等分にして、お客さんの注文に応じて、頭側から尾へ、カミ、ナカ、シモと3つの部位にわけていきます。

 

ご存知の通り、体の大きなマグロは、部位で味わいが異なり、価格差も大きくでます。脂っぱらの“腹カミ”はトロと赤身が取れる高級な部位で、尾側のシモは比較的低価帯の部位に。切り分けたマグロの買い手は小売店や飲食店などで、大宗さんでは地方の魚市場や問屋、海外へも出荷しているそうです。

 

技術の進歩で生マグロに引けを取らない冷凍マグロ

再び白田社長にバトンタッチ。
冷凍マグロが築地に届くまでのお話を伺います。

 

シノブ
築地では生マグロよりも、冷凍マグロの方が取り扱っている数が多いと聞いたのですが。

 

白田社長
築地で扱うマグロはだいたい毎日、約200トンと言われていますが、そのうちの75%が冷凍マグロです。最近は養殖の技術があがって生マグロが増えてきているので、比率は少し下がってはいますが、以前は8割くらいありました。

先代の、私の父の話では、40年ほど前までマグロというと近海で獲れる生マグロだけだったそうです。それが、1970年頃に冷凍技術がより発達して、冷凍庫を積んだ遠洋漁船が登場して冷凍マグロが増えはじめたんです。いまでは遠洋で獲れたマグロは獲ったそばからマイナス60度で冷凍して、そのまま築地まで運ばれてきますよ。

 

釣りあげられたマグロはすぐに下処理がほどこされ冷凍船で港まで運ばれてきますその後、冷蔵庫で出荷まで管理され、冷凍トラックで輸送され築地に届くのだそう。

 

白田社長
マグロの場合、凍らせるスピードが遅いと、解凍したときに魚の水分が出ちゃうんですね。凍った状態でも、温度が低い状態でないと酸化がどんどん進んでしまいます。

マグロを少しでも早く凍らせるために、船の上でも、冷凍室での魚の並べ方や風向きを工夫したりして釣った瞬間から即座に冷凍作業に入れるよう整えられているのだそう。そして港でも、冷凍倉庫を超低温で保ち、マグロを傷めない努力を重ねています。

 

シノブ
築地の冷凍マグロの競り場も、他の魚の競り場と比べて寒かったです。あれも低温を保っているんですね。

 

白田社長
そうですね。それで競り落としたマグロは、うちのこの“ダンベ”(上下開閉式の大型冷凍庫)で、マイナス55〜60度のところに入れます。マグロはマイナス50度以上だと1年間保存していてもなんでもない。

マイナス70度あると10年もつといわれています。それだけ劣化しない。でもマイナス40度以上になると、凍っていても細胞が活動を始めるので、変色や身質の劣化が発生しはじめるのです。

 

▲約マイナス60度、極冷温の冷蔵庫

 

シノブ
家の冷蔵庫だとマイナス40度にもならないですよね。

 

白田社長
家庭用の冷蔵庫の冷凍室はだいたいマイナス20度程度です。そこに冷凍マグロを保存すると1週間ともたないでしょう。身が茶色く、冷凍焼けを起こして、脂が酸化してしまいます。よく「冷凍マグロはまずい」と言われますが、それは保存状態のよくないものであることも、そう言われる理由の1つだと思います。

 

シノブ
たしかに…なんだか嫌な酸味があって、やっぱり冷凍はダメなのかなあと思うことがあります。

 

白田社長
酸化してしまって脂が酸っぱくなってしまったのでしょう。それともう1つ、冷凍マグロがまずいというイメージができた原因に解凍の仕方にもあると思います。

 

シノブ
いつも冷蔵庫で自然解凍しています。それだとダメなんですか?

白田社長
解凍の仕方をまちがうと、マグロの質はガタ落ちしてしまうので、そこはご注意していただきたい。

 

マグロには、マグロのうまみの元になる成分「アデノシン三リン酸=ATP」が含まれていて、このATPはマグロの死後、熟成が進むとイノシン酸といううまみ成分に変わり、うまみを生み出していきます。

釣り上げられ、死後硬直が始まる前に急速冷凍されたマグロは、ATPなどの成分が失われることがなく保存された状態です。冷凍マグロを解凍すると、熟成が進みイノシン酸が増えるのです。解凍の仕方を誤ると、この旨味成分が流出し、マグロ本来のおいしさが失われてしまいます。

 

白田社長
それでいうと、生マグロは、食べごろ(ATPがイノシン酸に変わるタイミング)を見極めるのが非常に難しいと思います。そのため、ご家庭などでは、解凍のときに気を使っていただければ、とても美味しく召し上がっていただける。冷凍マグロは生マグロと比べて、食べごろをあまり気にせず、おいしく食べていただけるのではないかと思います。

▲大きな冷凍マグロの塊

 

シノブ
マグロは絶対に生がおいしいに決まってる、と思っていましたが、そうとは言い切れないのですね。良い状態に保たれているマグロかどうか、そしてそれを食べごろに味わう。

 

白田社長
生のマグロとひとことに言っても、ホンマグロ、メバチ、キハダといろいろありますし、近海もの、外国産、養殖とあります。漁法や水温、時期、漁場によって品質も変わってきます。冷凍といっても、産地はさまざまです。

「生だから美味しい」とか、「どこそこのホンマグロだから一味ちがう」といった、言葉だけを鵜呑みに、信じてしまわず、ぜひご自身の舌で味わって、ご自身が美味しいと思う魚を楽しんでいただけたらと思います。マグロほど産地や部位によって味も価格も違う魚は他にはいませんからね。

 

冷凍マグロをおいしく食べる解凍法

 

シノブ
冷凍マグロは、家ではどうやって保存すればいいですか?

 

白田社長
その日中に食べないときは、冷凍庫のいちばん冷える場所に置いて保存してください。

 

シノブ
それでどのくらいもつものですか?

 

白田社長
約10日くらいです。先ほども申し上げましたとおり、うちではマイナス60度で冷凍保存しています。マイナス40度以上にあがると酸化がはじまるなどして、マグロの状態が良くなくなってしまいます。

 

シノブ
家でもできる、おすすめの解凍方法を教えてください!

 

白田社長
召し上がる2時間前に冷凍庫からだして、マグロが入る大きめのボウルに30度くらいのお湯を張ってください。そこに塩を入れて、海水くらいの濃度にして、ボウルのなかでマグロの切りカスなどが取れるまできれいに洗います。

その後、4、5分ほど浸して、表面が解ける状態になるまで待ちます。ほどよく解凍できたら、水道水でマグロを洗って、ペーパータオルで水分を拭き取ります。そしてペーパータオルにくるんで、冷蔵庫で冷やし込みながら、ゆっくり解凍してください。

※詳しくは下記の記事もご覧ください。

築地のプロ直伝!冷凍マグロが劇的に美味しくなる解凍方法

 

グロを凍ったまま冷蔵庫で解凍する“自然解凍”は、低温度で解凍するため一見よさそうに見えますが、解凍に時間がかかり、温度にもムラが出るため、一部だけ解凍が進んで、ほかは遅かったりなどで、結果としてマグロの旨味や栄養素が抜けてしまったり色が悪くなってしまったりするのだそうです。

また、マグロにとって不向きな温度帯というのがあり、マグロが赤く発色する成分ミオグロビンの変色が最も激しい温度帯がマイナス3度〜マイナス7度で、この温度帯にマグロが長く留まっているとあっという間に黒く変色してしまうのだそうです。

マイナス1度〜マイナス5度は氷の粒がとても大きくなりやすい温度帯で、この大きな粒が周りの細胞を潰し、ドリップとともに栄養素や旨味などを大量に押し出してしまい味の低下を招きます。マグロの解凍は、この温度帯を素早く通過させることが肝心なんだそうです。

 

白田社長
冷凍マグロを解凍したとき、しばしば身にチヂレが見られることがあります。

 

シノブ
チヂレですか?

 

白田社長
生マグロの場合、獲られたあとゆっくりと死後硬直が進むのでこのチヂレは起きません。冷凍マグロの場合は、獲ってすぐ、死後硬直が起こる前に冷凍します。そのため、解凍すると急速に死後硬直が進むため身が縮れるんです。

シノブ
ということは、このチヂレが出る冷凍マグロというのは、獲ってすぐ処理され、手当てが良く、獲れたてに近い鮮度であるという証でもあるんですね。

 

白田社長
そうです。冷凍マグロを解凍して召し上がるとき、鮮度がいい、さっぱりとした味がお好みであれば、そのまますぐに召し上がってください。不織布など水分を吸い取る紙で包んでその上からラップして冷蔵庫のなかで1日くらい寝かせると、身がしっとりして旨味も増します。寝かせることでマグロの身が熟成して旨味が増すのです。

 

▲美味しいマグロの解凍方法を熱く語る白田社長

 

冷凍マグロは水っぽくてどうもおいしくない…と思っていましたが、それはきちんと解凍ができていないことなどに原因があるのだと知りました。

生マグロに比べて比較的、手にとりやすい冷凍マグロ。信頼のおけるお店で良質なものを手に入れて、丁寧に解凍し、心ゆくまで堪能したいです。

by
編集者/ライター。東京・下町生まれ。旅と町歩きとカメラが趣味。人生最後の晩餐はお寿司と決めている魚好き。